米国財団法人野口医学研究所

Thomas Jefferson University Clinical Clerkship 研修レポート

東京科学⼤学 5 年(参加当時は 4 年)今⽥敬都

2025年3月21日〜3月28日米国トーマス・ジェファーソン大学

野口医学研究所による今田さんのクリニカルクラークシップ研修レポート写真

2025年3⽉21⽇から2025年3⽉28⽇にかけて、アメリカ合衆国・ペンシルベニア州フィラデルフィアにあるトーマス・ジェファーソン⼤学において研修をさせていただきました。国際的に活躍できる感染症医を⽬指しており、世界最先端と⾔われているアメリカの医学教育がどのように⾏われているのかをこの⽬で確かめるということを⽬的として参加しました。野⼝医学研究所が主催するトーマス・ジェファーソン⼤学でのクリニカルクラークシップでは 1 週間の間に多くの診療科を経験でき、アメリカの医療の概要を掴むことができるプログラムが組まれており、⼤変充実した時間を過ごすことができました。
この 1 週間の経験を通じて、アメリカでの医学教育や診療の様⼦がわかっただけでなく、多くの先⽣⽅、現地の⽅、そして⾼い志を持った⽇本の医学⽣の仲間とのネットワークを広げることができ、⾃分の進路選択に⼤きな影響があった実習であったと感じています。研修中に感じたことや学んだことをこちらに記載させていただきます。

【Family Medicine】
Family Medicine は⽇本ではまだ⼀般的ではないので、アメリカで Family Medicine を専⾨分野として持つ医師の診療をみることは⼤変⾯⽩く感じました。
担当となった Dr . Jaffe は依存症の専⾨医であり、薬物やアルコールの依存があった患者さんが多かったという印象でした。特に興味深いと感じたのは、患者さんの主訴だけでなく精神⾯のケアも⾏なっていたということです。診察に多くの時間をかけるというのはもちろん、最近の悩みはないのかということや、薬物を使いたいという気持ちが出てきていないかなど、精神科的な診察も同時に⾏なっていました。患者さんが社会⽣活の⾟さから泣き出してしまったということがありましたが、Dr . Jaffe が患者さんの肩を抱えながら⾟い理由を聞いていた姿が⾮常に印象に残っています。
さらに、今後の⼤学での実習や今後の診療に活かせると思った学びとして、患者さんの⼈種ごとに診察を変えないということです。⽇本で医学を勉強している上では、多種多様な⼈種の患者さんを診察することが想定されておらず、渡⽶以前では漠然と「⼈種によって病気の罹患率が異なることから異なる⼈種に対して異なる鑑別を考えながら診察を進めていくのかなあ」と思っていました。しかし、Dr . Jaffe によると、アメリカでは様々な⼈種の患者さんを診察する機会がありますが、この時⼈種に基づいた医療(Race-based medicine)は社会的・政治的概念であることから医療に導⼊しないと教えていただきました。むしろ、今までのどのような⽣活をしているかということや、出⾝地などのほうが医学的に重要な情報であり、⼈種という先⼊観にとらわれないことが重要であると仰っていました。特に⽇本の感染症内科では海外からこられた患者さんが多いことから外国⼈医療を実践する機会が今後たくさんあると思いますが、この時に⼈種ではなくバックグラウンドを考慮しながら診察できるようにしたいと感じました。
Family Medicine での実習中では、Dr . Jaffe の監督のもと簡単に問診をとったり、患者さんの呼吸⾳を聞かせていただく機会をいただきました。⾃分の医学英語や医学知識が不⼗分であるということを痛感し、今後の学習に励みたいと思った次第です。

【Infectious Diseases】
HIV Clinic での実習に参加しました。HIV Clinic では、Ryan White Program と呼ばれる低収⼊や保険に⼊れていない⼈を対象にした連邦政府主導の HIV 診療プログラムのもと多くの AIDS 患者が診察に訪れます。特徴として、AIDS を含む性感染症の患者さんは社会⽣活で苦労をされている⽅が多く、予約時間になっても病院に現れない⽅が多いということがあります。その中でも、しっかりいらした患者さんの診察を⾒学させていただきましたが、印象に残ったのは Dr . Coppock が患者さんの今までの病歴やたわいもない話までしっかり覚えていられたということです。神経梅毒の症状によって⽂字が読めない状態から本を読めるようになったというように、患者さんとの距離が近い診療科であったと感じました。HIVは⻑い付き合いになる病気であるということから、患者さんがどのような様⼦であったかを経時的に理解することが重要であると教えていただきました。

【JeffHOPE, Philly House】
JeffHOPE とは、トーマス・ジェファーソン⼤学の学⽣が主体となって、運営している無料の診療所です。フィラデルフィアの市内にいくつかのクリニックがありますが、このうち Philly House と呼ばれる男性向けのシェルターでの活動に参加させていただきました。Med チーム、Education チーム、Advocacy チームなどに分かれ、それぞれが限られた資源の中で医療を適切に提供できる体制になっていました。低学年の期間から臨床経験が得られるということが⾮常に医学教育として良いと感じ、アメリカの医学⽣が⽇本の医学⽣と⽐較してプレゼンや診察能⼒が⾼い理由がわかったような気がしました。特に印象に残ったのは、Advocacy チームで、このチームでは患者さんの健康保険の相談や医療費の⽀払いなどの相談にのっていました。フィラデルフィアは収⼊が少ない⽅や移⺠の⽅が多い地域であるので、多くの患者さんが医療を受ける前段階である保険制度の段階に問題を抱えていることが多いです。⽇本の医学教育課程では医療制度や保険制度について医師として深い理解が得られない場合が多いですが、Philly House でのボランティアと同じように社会的な側⾯からも患者をサポートできるような医師を養成する課程が必要であると感じました。

【その他】
キャンパスツアーでは、歴史的な建物が多く残るフィラデルフィアの市内にある最新のキャンパスビルなどの⾒学をしました。またその最中に Vincent さんや Yumiko さんが、アメリカに住んでいる⼈としての医療の課題などを教えていただき、医療政策の観点で⼤変参考になりました。
⽶国医療保険制度の授業では、現在ハワイにおいて Resident をされている Dr. Kawai にアメリカの医療の良い点と悪い点を教えていただきました。特に印象に残っているのは、アメリカでは保険制度が難解であり病院受診へのハードルが⾼いということです。⽇本の医療制度の優秀さを改めて感じました。
Simulation Class では Dr . Majdan から患者の⼼に寄り添った医療を提供することの重要性を教えていただきました。さらに、SP に対しての医療⾯接の練習をさせていただく機会を設けていただき、患者さんへの共感を⽰しながら、話の流れに沿って問診をしていくことが⼤事と教えていただきました。
Schwartz Centre Rounds では、様々な医療従事者が緩和ケアの体験談を話すという場に陪席させていただきました。体験談の共有により、どのように患者さんと接するべきかを改めて考える良い機会となりました。
Internal Medicine Team Rounds では、ソーシャルワーカーとの連携によって患者をなるべく良い状態でなるべく早く帰すシステムが作られていることが⾯⽩いと思いました。さらに、同じチームの医学⽣が⾮常に⾼いレベルのプレゼンを⾏い、これに対して指導医が積極的に取り⼊れていたことも印象に残りました。アメリカと⽇本では医学教育の時期などが異なるということはありますが、アメリカの優秀な医学⽣の姿を⾒て、⾃らも同じような環境で将来 Resident の⾝分で学びたいと感じました。
Pediatrics では、様々なバックグラウンドを持つ⼦供達を診察する機会を得られました。思春期の⼦供に対して、性教育や精神科的な診察を⾏なっていたということが印象的でした。⼦供からは⾔いにくいこともしっかり医師の前で⾔えるような信頼関係の構築がなされており、⼦供との接し⽅において参考になりました。さらに、外国語を話す患者への対応として、外国語の絵本だけでなく、タブレットによる通訳システムも活⽤されており、英語が話せない患者にとっても訪れやすい配慮がなされていることが⾯⽩いと思いました。

【今後】
今回の実習を通じて、⾃らの医学英語や医学知識の不⾜を痛感しました。さらに、アメリカでの医学教育課程の良さと感染症医療の⾯⽩さを感じました。これらより、今後なお⼀層勉学に励み、今後アメリカで感染症医として働くという⽬標に邁進したいと思っています。

【謝辞】
このような貴重な実習に参加させていただきありがとうございました。⾮常に有意義な実習となったと感じています。野⼝医学研究所の佐藤先⽣、実習中にお世話になった Thomas Jefferson University のDr . Kuchera、Dr. Miller、Dr. Majdan、Dr. Jaffe、Dr. Coppock、Dr. Fields、Dr. Rampsott、Dr. Lau、Dr. Pohl、Thomas Jefferson University Japan Centre の Yumiko Radi 様、Vincent Gleizer 様、アメリカの医療保険制度について講義いただいた Dr. Kawai、その他 今回の研修でサポートいただいたすべての皆様に⼼より感謝いたします。ありがとうございました。