パシフィックパートナーシップ参加報告レポート
はじめに
この度は、野口医学研究所のご尽力でパシフィックパートナーシップ2018に参加させていただきました。野口医学研究所の佐野先生、杉田さん、Sunyobiさんをはじめ皆さんのご尽力により無事に参加することができ、様々な貴重な経験をさせて頂きました。特に佐野先生、杉田さんにはプログラムに参加できるよう特に尽力してくださり、大変感謝しております。また勤務病院の上司や同僚、野口医学研究所のスタッフの方、防衛省の方、自衛隊の方など、このような貴重な機会を与えてくださり、この場をお借りして深く感謝を申し上げますとともに、プログラムの継続、さらなる発展となることを願って研修の報告をさせて頂きます。
プログラムの応募のきっかけ
私の実家は兵庫県東灘区にあり、小学生時に阪神淡路大震災を経験しました。幸いにも家族は皆無事で、家は高層マンションでしたが倒壊することもありませんでした。最初の数日間は近所の小学校へ避難しました。その際に、近くの方から送られてきたおにぎり、毛布などの物資が被災後数時間にも関わらず届けられ、子供ながらに日本の思いやりや行動力に感動しました。また近所に住んでいる医師である友達の父親は、近くの勤務している病院へ助けに行き、約1ヶ月の間、家に帰って来ることもなく、睡眠時間も削って診療にあたっている話を聞きました。その頃の私は医師を志すことになるとは夢にも思っていませんでしたが、いつか災害の時に恩返しをすることを誓いました。医師となり、多忙な毎日を送る中、昔の夢をまだ実現していないこと、また恩師が災害の際に救助に行かれている話を聞き、私もやりたいという気持ちが強くなりました。小児科後期研修を終えようとしている時に以前野口医学研究所のメーリングリスクに、パシフィックパートナーシップの案内がありました。将来、災害や海外での医療をする際に、このプラグラムの経験が生かせるのではないかと思い応募することとしました。
英語の壁
学生時代の米国への1年間の留学経験、米国の医師国家試験(USMLE step2CK, CS)の勉強中、普段の臨床より英語の清書やup to dateを使用して勉強をしていることもあり、listeningの際の医学英語にさほど困ることはありませんでしたが、やはり圧倒的にspeakingの練習が少ないこと、vocabularyが少ないことが理由で、言いたいことが表現ができず、患者さんへの説明が自分の言いたいことの半分以下程度にしか伝えることができませんでした。最低限の問診、診察、結果説明を自然に伝えられるぐらいまで、例え普段の臨床が忙しくとも、練習していくべきでした。また、米国の医師と患者に関してdiscussionする場面では、周囲の雑音があったり、いつも明瞭に話してもらえるとも限らず、またスピードも早く、listeningに付いていけないことも多く、discussionに参加することできませんでした。また、毎日の日常会話の練習も継続しておく必要があると思いました。米国やイギリス、カナダなどの他の国の医療者たちと冗談を交えた日常会話を行えることで、仕事上でも円滑なコミュニケーションや信頼感を勝ち取り、チームワークを行うことで医療の質を向上できます。また自分自身もストレスなく、楽しむことができると思います。米国のレジデントや医学生との会話から、試験の勉強法も共通していること、普段の診療の中での人間関係の悩みなど、悩みは世界中同じであると驚くと同時にほっとしました。Writingに関しては、今回紹介状を書くこと以外は特にありませんでしたが、日本で何度か練習しておけば困ることはないと感じました。また今回は文献を急いで調べる必要性などはなく、readingの力が必要な場面はありませんでした。
活動内容
今回は、パシフィックパートナーシップの活動の中で、スリランカの活動に参加しました。現地の学校や診療所で、患者の診療にあたるCHE、スリランカでの教育目的にBLSや搬送のデモンストレーションを現地の病院で行うSMEE、災害医療などのシンポジウム、手術が必要な患者のスクリーニング、活動拠点である病院船のMercyでの手術などがありました。私は、CHE, SMEE, シンポジウムに参加しました。SMEEやシンポジウムは事前にどういうことをやるかといった打ち合わせが米国側と行うことができていないため、事前に準備ができず、米国側が準備してきたものにobserverという形で参加する形でした。内容的には既に知っている内容もあり、パシフィックパートナーシップが決まった時点で、米国側と打ち合わせを行い準備を十分に行えば、日本側からもプレゼンテーションを行うことも可能であると思います。相手の顔がわからない状態で、さらに母国語以外の言語で連絡を取り合うことは非常に難しいことですが、顔見知りや一緒に活動を共にしたもの同士であれば可能であると思うので、前年度の参加者が連絡係となることが可能であればもっと日本人にも活動に積極的に参加することができると思います。CHEでは、事前に診療が行われることがアナウンスされており、当日に集まった患者に対して、看護師によるトリアージ・問診の後、各科に振り分けられ簡易で作成した診療ブースで診療を行いました。どんな患者が来るかは正直分からず、私が担当した小児ブースでは、胃腸炎や気管支炎、外傷が来るのかと予想していましたが、実際は本当にvarietyに富んだ患者さんが来院されました。スリランカは、イギリスの医療教育が行われており、医学部卒業後や研修後にイギリスへ留学し勉強する機会が多いそうです。そのため医療の質は高く、カルテを見てもしっかりとした問診、診察、検査、治療内容が書かれています。スリランカと日本や米国などとの違いは、専門施設や専門医、検査機器などの圧倒的な不足にあります。専門医の揃った病院は都市のコロンボにしかなく、田舎で定期的なフォローアップが難しい現状や、検査を行うことが難しい現状があります。周産期に異常があった児のフォローアップが行われていないなどの現状があります。また、既に高度な医療を受けているが、根本的な治療がない筋ジストロフィーや免疫不全症などの疾患の治療やsecond opinionを求めてやって来るケースも多々ありました。日本語で説明するとしても難しいムンテラを初めて会う外国人で専門医でもない自分が行うことに最初は戸惑いが大きくありましたが、家族へわかりやすい言葉で丁寧に共感や思いやりを持って接するという診療の根本は、日本語、英語であっても変わらないと思いました。普段の臨床で行なっているように、1症例、1症例大切に診ていく姿勢が大事だと痛感しました。
新しい環境、新しい人との出会い
今回のパシフィックパートナーシップはマーシーという米国の病院船で行いました。軍の生活、例えば食事の時間が早く決められていることや、活動時の団体行動の際の決まりごとなど、今までの生活とは違い驚くことや新鮮なことがたくさんありました。厳しい規律や決められた行動を皆がとることで連帯感や団結力が強くなり、災害などの際に生かすことができるようにされていると感じました。また、約2週間という短い期間で普段出会えることのないような人にも出会うことができました。海外の被災地で活動したことのある人や勉強中の人、日本以外の国の医師やコメディカルスタッフ、自衛官の人など色々な職種の方と接することで、刺激をもらいモチベーションとなりました。また一緒に活動や船の中で生活を行う中で、人間性や個性などをより深く知ることができ、これから関係性が続いていくような友達を作ることもできました。
終わりに
今回の活動を通して、自分の弱点が浮き彫りとなりました。その試練は、容易ではありませんが、決して乗り越えられない壁ではないと思います。弱点を一つずつ克服していき、還元していけるよう日々精進していこうと思います。このような素晴らしい機会を与えていただいた野口医学研究所の皆様、本当にありがとうございました。