研修レポート
このたびは、米国財団法人野口医学研究所の浅野嘉久先生をはじめとする先生方、ニコニコクラブ歯科医院横浜安東恭助理事長のご支援、ご理解を頂き、38日間にわたる留学が実現致しました。皆様のご厚情をあらためて深謝いたします。また、現地ではマイク•ケニー氏のご指導のもと、安全で充実した留学生活を送ることができました。心より感謝申し上げます
研修レポートは形式にとらわれず自由に作成してよいとのことでしたので、先に提出した英文のレポートには、感じたままに素直な感想を書かせて頂きました。重複した部分がありますが、補足の意味もこめて日本語のレポートを書きます。また、今後の研修や学生さんのために、特定の分野について加筆が必要であれば、喜んで寄稿させて頂きますのでどうぞ教えてください。
University Clinical Skills & Simulation Center (UCSSC) at Jefferson University Medical College
ジェファソン大学のシミュレーションセンターは、これから医療人になるすべての方に実際に研修を受けて頂きたいと感じるほど、立派で洗練された施設です。また、教育者の側に立たれる先生方にはこのような施設をフル活用して頂き、医療関係職の新人が自信をもって現場に出られるように応援してもらいたいです。ジェファソン大学には歯学部がないため、対患者さんを想定して実技訓練を行なう場所はありませんでした。けれども、近年歯科医師は高齢者施設などで看護師、介護スタッフとタイアップして働く場面も多くなったので、OT、PTのための家庭や病院の一室を再現した区画は見ておく必要があると思います。介護施設や病院に行き、疾患やリハビリの段階に応じて患者さんの体位を変え、ポータブルの器具を使用して訪問診療を行なうことがあるからです。さらに歯科医師にとって、救急救命の訓練はもう一段階踏み込んだレベルのものが必要であり、実際に救急の場面に遭遇したときに躊躇しないよう、知識の更新と定期的な訓練は必要だと思います。あくまで勤務医としての歯科医師の意見ではありますが、より多様化された需要の中で新人時代から柔軟性が問われるようになってきたと思います。
Standard Patients Programではシミュレーションの症例としてモデル患者さんを募集しています。これは日本にない試みで素晴らしいと感じました。
Thomas Jefferson University Hospital, Department of Emergency Medicine
ジェファソン大学の救急医療センターは市中に位置し、市民から信頼を寄せられている施設です。病床が埋まっていても、スタッフの手があかなくても、緊急時には患者さんを絶対に受け入れます。救急車から連絡があれば断ることはありません。利用者の内訳は外傷が主で、転倒、交通事故、その他の事故による外傷が多いけれども、市中は比較的に治安が良いため、フィラデルフィアの他地域と比較して銃弾による損傷はあまりないとの説明を受けました。
処方する薬剤は完全にコンピューターで管理され、職員の照合なしでは薬剤に触れられません。盗難を防ぐための工夫と管理は私たちと意識が異なります。様々な人種、宗教、文化背景の利用者がいること、またテロ等の有事に備え、現場は煩雑な作業を簡略化し、職員はそれを完全にルーティーン化していることからも、米国らしさを感じました。
日本では、医療従事者が基本的に白衣のまま外出することはありません(キャンパス外のコンビニエンスストアに行く、飲食店に入るなど)が、ここでは白衣のままの外出は認められていました。感染管理に関しては医師−医療職員間、医師−患者間(回診時の医師のネクタイが患者さんに触れることなども)、患者間の意識は高くても、外部からの雑菌の持ち込みなどに関しては意外と甘いと思いました。日本ではCDCやWHOの感染管理マニュアルを厚生労働省の有識者研究班で読みくだいて日本版にしていると思いますが、文化背景やコストパフォーマンスを考慮するとだいぶ変わってしまうのかもしれません。興味深く感じました。
The Children’s Hospital of Philadelphia (CHOP)
CHOPの見学ができたことは非常に幸運に思いました。なぜならばCHOPは1855年に設立されて以来、小児専門病院として国民からだけではなく、世界中から絶大な信頼を受けているからです。病床数430、昨年一年間の外来入院患者数は百万人にのぼるということからもその規模の大きさがわかります。各専門誌も絶賛していました。
特に感銘を受けた点は、ここでも人種、宗教、文化、経済背景を超えて、小児患者とその家族が治療に安心して集中できるよう支援体制が確立されていることです。CHOPの理念はFamily-orientedと称されますが、家族が小児患者と一緒に過ごせる場所、宿泊場所が確保されていました。また、長期入院中の小児の学習支援サービスがあり、大変温かい対応に感動しました。
The Etiquette Dinner hosted by Career Development Center & Activities Office
私は医療従事者として、異文化の中にいても、周囲から素敵だなと思われる人でありたいと思います。社会的責任の重い立場ゆえ、その振る舞いはどこに行っても注目を浴びるからです。場面に応じて適切な服装をし、上司や同僚と円滑でさわやかな交流を持つことが、日本人としていかに難しいか学ぶことは大切です。自分自身にとって非常にためになるだろうと感じたので、ジェファソン大学Career Development Center & Activities Officeが主催する「エチケットディナー」に参加しました。ドレスコードを守ることはときに面倒に感じるかも知れませんが、それは開催者へ感謝を示し、参加者へ敬意を払うことを意味します。日本の医学部、歯学部の教育も大変厳しいと思いますが、学外で「大人のおつきあい」をするとなるとまた別で、どうやら日本人の甘えの思想が邪魔をするようです。「まあ、いっか」というものです。マナー講座は日本にもありますが、留学の一環として楽しくお作法を再確認できる機会が若い学生さん達にもあればと思います。