米国財団法人野口医学研究所

Thomas Jefferson University Clinical Clerkship 研修レポート

藤田医科大学5年赤座万桜

2023年3月24日〜4月7日米国トーマス・ジェファーソン大学

藤田医科大学5年の赤座万桜先生による米国トーマス・ジェファーソン大学での研修レポート

私は大学の選択制臨床実習のプログラムと合わせて2週間(3/24/2023~4/7/2023Thomas Jefferson Universityで実習しました。私が実習に参加した目的のひとつはアメリカの医療を実際に経験し日本の医療との違いを知ることです。2週間で気づいたことをお伝えします。

まず私が最も驚いたのは医学生の役割の違いです。日本の病院実習では医学生は見学や講義が多く、実際に患者さんと関わる機会はあまり多くありませんでした。しかしアメリカの医学生は複数の患者さんを担当し、朝6時頃から回診しカルテを書きカンファレンスでプレゼンをしていました。さらにプレゼンでは薬の投薬量や投薬スピードまで治療方針を明確に提案しており、医学生のうちから臨床に深く関わっていることがわかりました。アテンディングが医学生やレジデントのプレゼンに対して丁寧にフィードバックやミニレクチャーをしており、とても教育的な環境だと感じました。

医学生の医療に対するモチベーションの高さを最も感じられたのがJeffHOPE, Chinatown Clinicの活動です。これらは医学生が主体となって週1回行っているフリークリニックです。アメリカには国民保険がないため病院にかかることが難しい人がたくさんいます。そんな現状を変えようとした一人の医学生の提案によって始まり、寄付金の募集から運営まですべて医学生が行っていることを知り感銘を受けました。実際に見学してみると、JeffHOPEではスクリーニングチームや教育チーム、子供と遊ぶチームなどにわかれ、上級生が下級生に教える形で診療を行っていました。ヒスパニック系やアフリカンアメリカ系の患者さんが多く、主訴としてはSTDのスクリーニングが多いとわかりました。Chinatown Clinicでは中国語しか話せない患者さんも多く、医学生が通訳としても活躍していました。私は運よく精神科の先生の診察を見学でき、通訳を介してしか会話ができない状況でどうやって精神状態を把握するかを学ぶ貴重な経験ができました。フリークリニックは経済的不安のある患者さんにとって必要不可欠な場所であり、アメリカの医療にとって大きな役割を果たしていることが分かりました。医学生にとっても1年生の時から実際の臨床現場に携わることで、診療技術が身に付き、また様々な社会的背景を知ることができるので良い仕組みだと思いました。

外来では患者さんが待っている部屋に医師が入室して診察するのが日本との大きな違いです。また診療時間も1人平均20分から30分と長く、新規患者さんには1時間ほどかけることもありました。日本では一般的でない家庭医療の外来を見学できたことはとても良い経験になりました。家庭医療ではかかりつけ医として生活習慣病の管理だけでなく、がん検診や予防接種を勧めたり他の診療科に紹介したりする役割を果たしていました。アメリカでは日本よりも専門分野が細かく分かれているため、患者さんの主訴に必要な診療科を判断しその診療科につなげる家庭医の役割は重要だとわかりました。

救急外来では医師、看護師の他にnurse practitionerphysician assistantなど様々な職種が協力していることが印象的でした。それぞれの役割も細分化しており例えばエコーを担当する職種、患者さんを手術室に運ぶ職種、電話を他科につなげる職種などです。画像検査も基本的にすべて放射線科医が読影しており医師はX線画像であってもレポート結果を待って治療を進めていました。多くの職種がいるからこそコメディカルとのコミュニケーションがとても重要であると感じました。もうひとつ気づいたのはカルテが効率的であることです。アメリカには電子カルテ会社が複数あり、同じ会社のカルテであれば他の病院のカルテを一部見ることができます。入力の仕方は細かく決まっており、既往歴や予防接種歴などがすぐに確認できるようになっていました。また身体診察所見やROS入力は基本的にボタンを押すだけで文章が入力され、単純化・画一化されていました。他科への相談もチャット形式なので長い紹介状を書くより効率的です。カルテは患者さんも見ることができチャットで医師に直接質問できることにも驚きました。

2週間という短い期間でしたが様々な経験をすることができました。特に2週目は郊外のMethodist病院の救急外来で3日間実習しました。簡単な身体診察や患者さんへの伝言、心エコーなど実際に患者さんと関わることができ良い経験になりました。麻酔科の実習では日本では珍しい三尖弁置換術を見学できました。アメリカではIVドラッグによる三尖弁逆流が多く、そのような患者さんは術後に抗凝固薬を服用しない可能性が高いため若者であっても生体弁を使用することなどを学びました。他にもオピオイド乱用や喘息、肥満などアメリカで問題となっている疾患について知ることができてよかったです。

最後になりましたが、今回実習に参加する機会をいただきとても感謝しています。将来アメリカで働くことを考えている私にとって今回の経験はとても有意義なものになりました。TJUDr. Wayne Bond Lau, Dr. Joseph Majdan, Dr. Christine Hsieh, Dr. Yoshihisa Morita, Japan centerのラディ由美子さん、野口医学研究所の佐藤隆美先生、佐野潔先生、木暮さん、掛橋さん、その他実習に関してお世話になったすべての皆様に感謝申し上げます。ありがとうございました。