プログラムを通じて学んだこと、気づいたこと
私は家庭医領域や公衆衛生への漠然とした関心から、これらの領域の進んでいる米国であれば学びが多いだろうと考え本プログラムに応募した。大学の公衆衛生学の講義や実習がとても興味深く、さらにパンデミックの時期が学生生活の期間と重なったことで、統計学的観点から社会全体に対し医学的側面からアプローチすることに魅力を感じていた。この点において、今回のClerkshipは自分の中で考えていた「社会」を再定義するに至った。世界中の数ある国の中で日本の、日本人だけを無意識に想定していたが、場所が異なれば宗教も価値観も異なり、ジェンダーや経済的自立度も異なる。目の前の患者だけでなく、社会全体を見ようとしていた自分にとって、広い世界に存在する潜在的な患者を理解することは重要である。
その意味で、このプログラムの期間中は、医学や医師という職業を異なる側面から見つめ直すことを通じて将来のキャリアについて考えるよい機会になった。例えば、Digital HealthやPopulation Healthは日本で学ばないが、高齢化し過疎化が進む日本で重要度が増す分野である。また、日本では医学というScienceの側面を中心に学ぶが、米国の学生は医療というArtの部分にふれる機会が多い。例えばTJUでは、JeffHOPEのような医療支援を通じ倫理について考えさせられる機会があり、患者の人種やジェンダーも多様であり、ロールプレイを通じてCompassionを学ぶ授業が行われている。
研修医になっても、保険や医療費について学ぶ機会があり、実務を行う上でこれらの知識は重要である。このような日米の差を目の当たりにし、医学だけをひたすら学んできた自分にとって、職業としての医師のあり方を深く考えさせられた。米国含め海外で学ぶ機会があれば積極的に挑戦したい。
“Professionalism と Compassion” について
多様なバックグラウンドの患者さん、そして公衆衛生学的な視点からは、自分の目に見えないところにいる、あるいはまだ患者さんになっていない人すべてに対するCompassionを示し、広い視野を持って医療に望むことが重要である。自分の考えていた「医療」を再定義するような講義の数々を通じ、ジェンダーや人種や宗教にかかわらず医療を提供することの大切さを再認識するに至った。
講義の中で、米国の病院や企業は多様性を確保するために人種や性別のバランスをとっていると学んだ。今後、米国など異国の地で医師としての職を得る上で、私の強みとなる個性を伸ばしたい。単にアジア人だから、Diversity & Inclusionのために採用されるのではなく、私を採用したいと思っていただけるような強みをつけた上で今後のキャリア形成に臨みたいと考える。
そのためには、今回のプログラムで視野を大きく広げられたように、現状の自分に満足せず、患者さんのためにLife Long Learningを続けられる医師こそが真のProfessionalであると考えている。そして、その理想像に近づくためには、自分が知っていることと知らないことを切り分け、常に謙虚な姿勢で学びを深めなければならない。患者さんのために日々研鑽をするという医師の責務に私は強い魅力を感じている。私は知らないことを知らない、できないことをできないといえる医師になる。
これから学生や研修医として過ごす時間は、単に毎日働くのではなく、定期的に立ち止まろうと思う。自分の将来の目標や理想とする医師像を振り返り、自分にしか成しえない医療を提供するためのProfessionalismについて考え、その技能を習得するための修練に時間を費やしたい。
本プログラムはパンデミックの中で、当初は現地への留学を予定していたものがオンライン開催に変更になるなど、流動的な状況での実施となりました。そのような状況下で私達学生に貴重な学びの機会を提供していただいた野口医学研究所の皆様、Thomas Jefferson Universityの皆様には多大なるご支援を賜り、厚く感謝申し上げます。