Tokeshi Dojo, Kuakini Medical Centerでの研修
【はじめに】
私はもともとFamily Medicine領域での米国への臨床留学に興味があり、2019年末に野口医学研究所の選考会に参加させていただきました。当初より2021年末の留学を希望しておりましたが、その後、コロナ禍に伴い留学が全面受け入れ停止となってしまいました。半分研修を諦めかけていたそんな折、当初研修を希望していたHawaii大学関連病院が2021年12月より研修受け入れを再開するとの連絡をいただき、紆余曲折を経て、今回研修に行かせていただきました。
【渡航前の準備】
コロナ禍の研修は、書類の準備からスタートです。誓約書やワクチン等、手続きが非常に煩雑でしたが、木暮さんをはじめとする野口医学研究所の皆様に手厚くサポートいただき、何とかこなすことができました。その後も成田空港でのPCR検査や現地での隔離等ありましたが、最後までサポートいただき、スムーズに現地入り&研修開始ができました。日々変化する隔離期間等のコロナ関連ルールもあり、仕事をしながら自分一人ですべてを把握するのは困難であったと思われ、サポート体制の厚さに大変感謝しています。
【研修の実際】
隔離を終えた後、計4週間の研修に入りました。私は、最初の1週間はTokeshi Dojoでの研修でした。渡慶次先生は日本人の家庭医で、日本の高校を卒業後、現在に至るまで米国に在住されている大ベテランの先生です。研修前に1000ページを超えるDojo Manualに目を通し、緊張の面持ちで初日を迎えました。Dojo Manualに、「怒りは未熟さの証」と記載のある通り、渡慶次先生は非常に優しく、研修以外にも日常生活の事まで含め、多くを気遣っていただきました。
医学的な面に関しては、渡慶次先生が対応する疾患層、患者層の幅広さに非常に驚きました。精神科、皮膚科、整形外科領域の疾患を含め、自身が総合診療医として日本で対応しているものより幅広い領域を扱っておられました。かかりつけ患者の健康問題は何としても自分が対応する!という気概と、実際にそれが出来てしまう知識及び技術の幅広さ、日々最新の医学知識をupdateし続けるその姿勢に、非常に感銘を受けました。こうした背景から渡慶次先生は患者さんからの信頼も非常に厚く、中には5世代にわたって渡慶次先生にかかられているFamilyもいるそうです。
加えて、研修中、渡慶次先生からは医学的な事のみならず、全人的なフィードバックをいただきました。患者さんに接するときの姿勢、考え方、医療の枠を超えた人としての在り方など、医学の範疇を超えて多くの事を学ばせていただきました。
我々医師は患者のservantであり、かかりつけ患者からの要請があれば24時間365日対応、患者さんのためにはどんなHard workでもこなし、食事と睡眠はoptionalという姿勢で50年近くも診療を続けてこられた渡慶次先生に尊敬の念を抱くとともに、自身にとっても医師としてのあり方を見つめなおす良いきっかけとなり、モチベーション向上にも繋がりました。
【研修の実際 2】
Tokeshi Dojoでの研修の後は、Kuakini Medical Centerで内科の研修に参加しました。Kuakini Medical Centerの内科は4つのチームに分かれており、各チームはUpper Level Resident (PGY 2-3)+Intern(PGY1)+医学生(3-4年生)+Observer(私たち)で構成、加えて診療に関して最終決定権と責任を持つAttending physicianが担当患者それぞれについて割り当てられる方式でした。診療は完全な屋根瓦方式で、基本的にはまず朝にInternが1人でカルテチェック、回診を行い、up to date等のツールを適宜利用しながら自力で方針を考えます。そしてUpperと合流し、Upperにプレゼン、方針の共有と確認を行います。その後、朝の抄読会やレクチャーを経てAttendingに相談し、再度プレゼン、方針の確認と決定を行うという流れでした。
Internは朝も早く、ローテーション場所も数か月ごとに変わるため、システム等含め慣れない中、自力で診療方針を全て考える必要があるためとても大変そうでしたが、そのおかげか非常に鍛えられており、とても医師半年目とは思えないパフォーマンスを発揮していました。
なお、そのようなトレーニングを1-2年こなしたUpperには、患者の治療方針の確認だけではなく、患者さんの転棟の判断やInternのサポート、チームメンバーの教育など、チームリーダーとしての役割が求められます。卒後2年目でチームリーダーとなることは、日本の感覚からすると一般的ではない印象でしたが、前述のように1年目の時にしっかりしたトレーニングを受けてきたためか、何の問題もなく堂々とチームリーダーとしての役割をこなしていました。
また、患者さんのマネージメント以外にも、教育やObserverの対応もしっかりこなすべき、という風潮があります。ちょうど私が研修を開始した時期は人の入れ替わりがあり、とても忙しい時期だったにも関わらず、可能な範囲で私が経験したいこと、やりたいことを叶えたいと言ってもらい、AttendingへPresentationする機会を与えてもらうなど、配慮してもらいました。また、仕事の合間にも、時間があれば米国の病棟の仕組み、医療や保険のシステムについて話をしてもらい、大変勉強になりました。
Kuakini Medical Centerでの研修を通じて、米国と日本の医療システムの違い、教育システムの違いを学ぶことができ、また多種多様な患者層に触れられたこと、Attendingへ米国式presentationを行う機会をいただいたことは、かけがえのない経験でした。また、英語のリスニング力、スピーキング力など、自身のなかで将来米国へ行くに当たって課題となる部分もみつかり、非常に良い経験となりました。
コロナ禍で自分自身、またサポートしてくださった周囲の方々にとっても大変な留学ではありましたが、苦労を補って余りあるかけがえのない経験となり、本当に行けてよかったと思います。
【謝辞】
このコロナ禍の中、研修に参加させていただいたTokeshi Dojoの渡慶次先生、チームDのChesta, Daniel, またDr. SumidaをはじめとするKuakini Medical Centerの皆様、何から何までサポートいただいた野口医学研究所の皆様に、この場をお借りして御礼申し上げます。